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2021年5月23日 (日)

4月度定例会より

4月度定例会は他地区との合同開催による特別WEB定例会で、中医学講師による「免疫を調整するための中医学対策」講義が開催されました。

 

  • 鄒大同先生による講義「抗体と中医学の気」

免疫システムという概念は西洋医学のものであり中医学にはありませんが、中医学での「気」が免疫に相当するということを詳しく解説してくださいました。

 

. 新型コロナワクチンと抗体

新型コロナウイルスの治療法に抗体カクテル療法があります。同療法は2種類のウイルス中和抗体casirivimabimdevimaを組み合わせて患者に投与する方法で、リジェネロン社が創薬したものです。アメリカ合衆国トランプ元大統領やジュリアーニ元ニューヨーク市長に使用され、両氏ともに回復・退院されています。

COVID-19に使用されるワクチンはmRNAワクチンという種類で、コロナウイルス表面の「スパイク蛋白」の設計図であるmRNAを投与し、体内でスパイク蛋白のみを作らせ、抗体を産生させます。抗体には病原体の無力化や重症化を防ぐ効果が期待されます。

 

. 抗体と非感染性疾病

抗体は感染性疾病だけでなく、非感染性疾病にも利用されています。以下に例を挙げます。

  • 関節リウマチ・・・TNFαタンパク質阻害作用を持つ抗体製剤「アダリムマブ」
  • がんに対する抗体製剤・・・

モノクローナル抗体「トラスツズマブ」(乳がん)、セツキシマブ(大腸がん)、リツキシマブ(B細胞リンパ腫)、ベバシズマブ(各種固体がん)、ベルツズマブ(乳がん)

  • 骨粗鬆症・・・デノスマブ
  • メラノーマ・肺がん・・・免疫チェックポイント阻害薬「ニボルマブ」(オプジーボ)

免疫力が上がり過ぎて副作用(過剰免疫)が出る場合があります。この時は中医学で対応可能とのことでした。

    

. 抗体に関する中医学の思考

天然痘に対する「疫苗」(ワクチン)の歴史について解説がありました。疫苗は明時代に始まりました(15671572年)。記録によると疫苗には、天然痘患者の分泌物を児童の鼻に入れて抗体を作る方法や、痂皮を乾燥させたものを児童の鼻に吹き込む方法、患者の服を着せて軽く感染させる方法などがあったようです。18世紀に牛痘が始まるまで続けられていたようなので、ある程度の効果はあったのでしょうか。今のワクチンとは異なり軽く感染させる方法であり、現在では行われていないので、いわゆる副反応も大きかったことでしょう。

 

中医学では「抗体=気」と考えます。ウイルスなどの邪気(ワクチン)が体内に侵入し、正気(免疫)によって抗体が作られます。ワクチンは体外から取り込まれる「人工的な邪気」とのことでした。中医学的には免疫が過剰に亢進したり、六気・五志が過剰になったりすると「火」が発生します(自己免疫疾患、サイトカインストーム、感染症など)。免疫の過剰反応についても中医学で説明がつくようです。感染性発熱に対する中医学的治療は、表証に対する対応でOKとのことでした。

 

検査データがなく、弁証論治のみで行う場合をマクロ弁証、検査データを活用する弁証論治をマイクロ弁証と呼ぶそうです。初めて聞いた言葉です。新型コロナでは、抗体検査は陽性で臨床症状が無い患者が多いためマイクロ弁証を行います。検査データを収集して「気」の状態から今後の症状を予測し、治療方針を決定します。また、中医学の異病同治(関係性のなさそうな症状に同じ治療を施して治す)の考え方が、西洋医学の分子標的抗体治療に応用されています。

 

. 玉屏風散と抗体

これまで解説のあった免疫力「気」は、中医学で言うところの「衛気」に相当します。「衛気」を補うのに優れている玉屏風散を、感染やアレルギーを予防するために使用できるかどうか、臨床研究が中国で行われているとのことでした。

 

  • 王愛延先生による講義「免疫調整と妊娠力の改善」

免疫システムが妊娠時にどのように関わっているのか、また、着床障害に対する中医学の活用法について詳しく解説してくださいました。

 

. 母胎界面の免疫と妊娠力

妊娠は非常にユニークな免疫バランスで成り立っています。受精卵の半分は女性由来ですが、残りの半分は男性由来です。しかし女性は受精卵を受け入れる場合に限って拒絶せず、妊娠が成立します。妊娠とは排卵(採卵)後、受精(授精)し、子宮に着床する過程のことです。着床した受精卵は子宮内膜を脱落膜化させて胎盤を形成し、母体の血管から栄養と酸素の供給を受けるようになります。このとき、母体と胎児の境界面における免疫細胞はどのように働くのでしょうか。

 

着床時における母胎界面の免疫細胞の割合は、NK細胞70%、マクロファージ20%、T細胞(THh1,Th2,Treg10%です。子宮NK細胞(uNK細胞)は胎盤形成するのを助けます。さらに胎児へ血液供給し、胎児は攻撃しないという特徴を持ちます。T細胞ではTh1が優位になると流産しやすくなり、Th2が優位になると妊娠が維持されやすくなります。また、Treg(制御性T細胞)が妊娠維持を助けるため、Tregが減少するとヒト流産の原因となります。慢性子宮内膜炎では、形質細胞から長期的に浸潤されることによって着床障害が起きます。

 

まとめると、母胎界面では①uNK細胞の活性化②Th1/Th2バランスをとる③Treg細胞の機能向上④形質細胞の浸潤なし、を維持することが着床・妊娠維持を助けることに繋がります。

 

. 着床障害に対する中医学的治療

免疫異常と妊娠力の低下には関連性が認められ、免疫性不妊の罹患率は不妊患者中10~30%で、原因不明の不妊症のうち、免疫因子によるものは20~70%とのことでした。同定できる免疫性不妊因子には、抗リン脂質抗体陽性(APS)、抗精子抗体(AsAb陽性)、遮断抗体陰性、形質細胞陽性(CD138+、CD38+)などがあります。免疫性不妊は複雑で150種類以上の疾病に関連を持ちます。

 

着床障害に対する中医学的治療法は瀉法が多かったものの、最近は補法に代わってきています。uNK細胞、Th2細胞、Treg細胞などの機能を強化する中医学的な対応原則は、補腎・健脾・補血です。また、着床障害の原因になる形質細胞の浸潤を抑え、子宮内膜炎を改善するための中医学的な対応原則は清熱解毒です。このように、着床障害に対しても中医学的治療が有効であることが分かりました。

 

<まとめ>

現代医学による検査などが中医学に応用されたり、その反対に中医学の考え方が現代医学に利用されたりするようになってきています。医療の進歩によって、中医学の妥当性が明らかになってきている証拠ではないでしょうか。自然現象を観察することによって生まれた中医学の概念は、決して現代に通じないものではなく、人も自然の一部であることを思い出させてくれます。免疫を強化するには気を補うことが重要で、きれいな水や空気、適切な食事に気を配ることが大切です。具体的な症状にお悩みの方は、京滋奈中医薬研究会をご利用ください。

 

奈良市 漢方薬局 香薬房 佐藤奈都子

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